近年、EC市場の拡大に伴い、多くの小売事業者様が「ネクストエンジン」などの一元管理システムを導入されています。ECの受注から出荷までを効率化できる非常に便利なツールですが、そこに「卸販売(BtoB)」が組み合わさると、バックオフィス業務で思わぬ落とし穴にはまってしまうことがあります。
今回は、伝統的な刃物の小売およびEC販売を行っている企業様において、ネクストエンジンと会計ソフト「freee」の間に発生していたアナログな二重登録業務を、あえて「完全自動化ではない形」でスマートに解決した事例をご紹介します。
システム化やDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めたいけれど、コストやエラーのリスクが心配という事業者様の参考になれば幸いです。
1. 【課題】ECと卸の混在で発生していた、月2回の煩雑な請求業務
こちらの企業様では、一般消費者向けのEC販売をメインとしつつ、一部の取引先に対して「卸販売」も行っていました。
ECの在庫や出荷と一元化するため、卸販売の受注データもすべてネクストエンジン(以下、NE)に登録して管理する運用をとられていましたが、ここで大きな課題となっていたのが「締め・請求業務」でした。
ECであれば注文ごとに決済が完了しますが、卸販売の場合は「掛け払い(後払い)」が基本となります。さらに、取引先によって「20日締め」や「末日締め」など締め日が異なり、月に複数回の請求締め作業が発生していました。
当時の具体的な作業フローは、以下のような非常にアナログなものでした。
従来の請求業務フロー
- 締め日が到来するたび、担当者がNEから該当する取引先のデータを伝票単位で検索・呼び出す。
- 会計ソフト「freee」の画面を開き、NEのデータを見ながら一括請求書を作成する。
- 請求金額や伝票内容に間違いがないか、両方のシステムを目視で突き合わせる。
この運用の最大の問題点は、「NEとfreeeへの二重登録・二重確認」が発生していたことです。
伝票の数が少なければ手作業でも対応できますが、事業が成長するにつれて伝票数は増加します。締め日が近づくたびに、経理担当者様は「入力ミスや漏れがあってはならない」という強いプレッシャーを感じながら、多くの時間をこの単純な転記作業に費やしていました。
また、手作業による転記はどれだけ注意していてもヒューマンエラーのリスクをゼロにすることは難しく、チェック業務にも膨大な時間がかかっていました。
2. 【提案】コストとリスクを抑える「身の丈に合った半自動化」の選択
この課題を解決するため、私たちはシステムの連携による業務改善をご提案しました。
開発の方向性を検討する際、技術的には「NEとfreeeをAPIで直接連携させ、人が一切介在せずに請求書を完全自動で作成するシステム」を作ることも十分可能でした。しかし、私たちはあえて「一部に手動作業を挟む、半自動化の仕組み」をご提案しました。
理由は大きく分けて2つあります。
理由①:コストパフォーマンスの最適化
経理や請求といったバックオフィス業務は、企業にとって重要な基盤ですが、売上に直接直結する「付加価値を生み出しやすい業務」とは言えません。そこに莫大なシステム開発コストや維持費をかけて完全自動化することは、投資対効果(ROI)の観点から必ずしも最適とは限らないと考えました。
理由②:データの柔軟性とエラーへの備え
卸販売の現場では、時として急な金額変更や、イレギュラーな伝票処理が発生することがあります。データ形式が完全に安定していない状態で100%の自動化をしてしまうと、システムエラーが発生した際の原因究明や修正が難しくなり、かえって現場が混乱してしまうケースが少なくありません。
要所ごとに「人が作業を行い、データの確認や補完ができる余地」を残しておく方が、結果として運用の安定性が高まると判断したのです。
具体的な提案内容として、身近なツールである「Googleスプレッドシート」をハブにした以下の仕組みを構築しました。

【新しい運用フローの全体像】
[ネクストエンジン]
└ 取引先マスタに「20日」「末日」などの締め日を設定
↓ (締め日の翌日)
└ 受注・出荷伝票をCSVでダウンロード
↓
[Googleスプレッドシート]
└ CSVデータをそのままインポート
└ 「締め」ボタンをクリック!
↓ (プログラムが自動処理)
[会計ソフト freee]
└ 得意先ごと・伝票単位で請求データが自動作成される
システムのポイント
- NEマスタの活用: NEの取引先マスタ(卸先マスタ)に、あらかじめ「20」や「末日」といった締め日情報を登録しておきます。
- CSVによる橋渡し: 各締め日の翌日に、前回締め日から当月締め日までの対象データをNEからCSVで一括ダウンロードし、専用のスプレッドシートに貼り付けます。
- ワンクリック連携: スプレッドシート上に配置した独自の「締め」ボタンをクリックするだけで、プログラムがデータを解析し、得意先ごと・伝票単位でfreeeに請求データを自動生成します。
3. 【結果】二重登録のストレスから解放され、チェックに集中できる環境へ
この「半自動化システム」を導入したことで、現場の業務は劇的に変化しました。
最も大きかった変化は、「手入力による二重登録の作業が完全に消滅したこと」です。これまでNEの画面とfreeeの画面を行き来しながら、1件ずつ伝票を入力していた時間がほぼゼロになりました。
導入後の効果をまとめると、以下のようになります。
- 作業時間の圧倒的な短縮: 月2回、それぞれ数時間〜半日かかっていた請求書作成業務が、CSVをダウンロードしてスプレッドシートのボタンを押すだけの「数分」の作業に短縮されました。
- ヒューマンエラーの防止: データがシステムを介してそのままfreeeに連携されるため、金額の打ち間違いや取引先の選択ミスといった書き写しエラーが根本的に発生しなくなりました。
- 心理的負担の軽減: 「間違えられない」というプレッシャーの中での手入力作業から解放され、担当者様は「システムが正しく処理したか」を最終確認するだけの、精神的に余裕を持った運用が可能になりました。
スプレッドシートを挟む形にしたことで、万が一「今回の伝票だけ少しイレギュラーな調整を入れたい」という場合でも、freeeにデータを送る前にスプレッドシート上で簡単に微調整ができるため、現場の運用ルールを無理に変えることなくスムーズに定着させることができました。
4. 【まとめ】100%の自動化だけが正解ではない。現場に寄り添う業務改善
世の中のDXや業務効率化のニュースを見ていると、「すべてを全自動化すること」が正解であるかのように語られがちです。しかし、企業の規模や予算、そして業務の性質によっては、完全自動化が必ずしもベストな選択肢になるとは限りません。
今回の刃物小売&EC販売企業様の事例では、以下の大切な視点を得ることができました。
- 付加価値を生みにくいバックオフィス業務には、コストを抑えた仕組みを検討する。
- データの形式が不安定だったり、エラーの可能性があったりする場合は、あえて「人の手」を介する余白を残す。
- 完全自動化を目指して挫折するよりも、身近なツール(CSVやスプレッドシート)を組み合わせて早期に改善を実感する。
何もかもをシステムに任せる全自動ではなく、「面倒でミスが起きやすい単純作業はシステムに任せ、最終的な確認や補完は人が行う」というハイブリッドな半自動化こそが、中小企業様の現場において最もコストパフォーマンスが高く、持続可能な改善策になるケースは多々あります。
私たちはこれからも、お客様の業務実態とご予算のバランスを常に考え、綺麗事だけではない「真に現場が楽になる提案」を大切にしていきたいと考えています。
同じように「システム間のデータ転記に追われている」「日々の業務をもう少しスマートにしたいけれど、大掛かりな開発は難しい」とお悩みの事業者様は、ぜひ一度お気軽にご相談ください。現場にちょうどいい解決策を、一緒に見つけていきましょう。