EC市場の成長にともない、アパレル業における在庫管理の重要性はますます高まっています。しかし、華やかなWebサイトの裏側にある「実地棚卸し」の現場では、多くの方がアナログな作業とミスの発生に頭を悩ませているのではないでしょうか。
今回は、2人1組で行っていた手作業の棚卸しを、無料のノーコードツール「AppSheet」と在庫管理システム「ネクストエンジン」を組み合わせることで劇的に改善された、あるアパレルEC事業者様の事例をご紹介します。
過度なシステム投資をすることなく、今あるリソースを最大限に活かして現場の負担を減らした、等身大の業務改善ストーリーです。
【課題】「2人1組」で挑むアナログ棚卸しが、現場の負担になっていた理由
こちらの事業者様では、半期に一度の総棚卸しだけでなく、毎月の定期棚卸しを欠かさず実施されていました。ECショップとしてお客様に正しい在庫数を提示し、売り越し(在庫がないのに売れてしまうトラブル)を防ぐためには不可欠な作業だったからです。
しかし、その方法は昔ながらのアナログなものでした。
- 1人がハンガーや棚の「下げラベル(値札)」から品番を読み上げる
- もう1人がその声を聞き取り、紙の在庫リストに品番と数量を手書きで記入する
この「読み手」と「書き手」の2人ペアによる作業には、いくつかの根深い課題が潜んでいました。
1. 聞き間違いと書き間違いの連鎖
アパレルの品番は、英数字が複雑に組み合わさっていることが少なくありません。「B」と「D」、「M」と「N」など、注意深く発音していても聞き間違いが起こりやすい環境でした。また、色違いやサイズ違いが豊富なアパレル特有の性質上、リストの隣の行にうっかり数量を書き込んでしまうという「記入ミス」も頻発していました。
2. 人手と時間の圧倒的なロス
2人1組で作業を進めるため、当然ながら2倍の人時(にんじ)がかかります。また、一通り数え終わった後に、オフィスのパソコンでExcelに入力し直すという「二度手間」も発生していました。
3. 「ズレ」の原因追跡が困難
すべての入力が終わったあとに帳簿在庫(システム上の在庫)と照合するため、数日後に「どうしても3枚合わない」といったデータのズレが発覚します。数日前の現場の状況を思い出すのは難しく、結局は倉庫へ戻って再確認(再棚卸し)をすることになり、スタッフの精神的なプレッシャーにもなっていました。
「スタッフはみんな真面目に取り組んでくれているのに、どうしてもミスが出てしまう。方法そのものを変えなければ、現場の疲弊は止められないと感じていました」
当時の担当者様は、このように振り返ってくださいました。
【提案】使い慣れたツールと無料のノーコード「AppSheet」の組み合わせ
そこで私たちは、大きなコストをかけて専用のハンディターミナル(バーコード読取端末)を導入するのではなく、現場のスマートフォンを活用した「AppSheet(アップシート)」による棚卸しアプリの構築をご提案しました。
AppSheetとは、Googleが提供しているノーコード(プログラミングをしない)アプリ開発プラットフォームです。Googleワークスペースの契約内、あるいは無料の範囲内からでも十分に活用をスタートできるのが大きなメリットです。
具体的には、以下のような仕組みを提案・構築いたしました。
スマホのカメラをQRコードリーダーに
スタッフが持っているスマートフォンにアプリを入れ、カメラを商品のQRコード(またはバーコード)にかざすだけで、瞬時に品番を読み取れるようにしました。これにより、「声を出す」「耳で聞く」「手で書く」というプロセスがすべて不要になります。
「ネクストエンジン」の在庫データと事前連携
こちらの事業者様では、ECの統合管理システムとして「ネクストエンジン」を導入されていました。
そこで、棚卸しを開始する直前にネクストエンジンから現在の在庫データ(CSVファイル)を出力し、アプリのバックエンド(裏側のデータベース)である「Googleスプレッドシート」にあらかじめ読み込ませておく仕様にしました。
この事前準備により、以下のようなスマートな照合が可能になります。
[QRコードをスキャン]
↓
[アプリがその品番の『帳簿上の在庫数』を瞬時に引っ張ってくる]
↓
[スタッフが目の前にある実数を入力]
↓
[その場で「帳簿数」と「実数」のズレがないかを自動判定]
スプレッドシートへの自動転記とデータの二次利用
アプリに入力された実地棚卸のデータは、リアルタイムでGoogleスプレッドシートに書き込まれていきます。
棚卸しが終わった瞬間に「集計済みの最新在庫データ」が完成しているため、その後の発注計画や、社内での在庫集計、さらには会計処理(棚卸資産の算出)へスムーズにデータを転用できるよう設計しました。
【結果】棚卸し時間が50%削減!その場でズレに気づける安心感
AppSheetを活用した新しい棚卸しシステムを導入した結果、現場には驚くほどの変化が現れました。
1. 作業時間がこれまでの「半分」に縮小
これまでは2人1組で声を掛け合っていた作業が、スマホを片手に「1人」でテンポよく進められるようになりました。2人で3時間かかっていたエリアが、1人で1.5時間、あるいはそれ以下で終わるようになり、トータルの棚卸し時間は綺麗に50%削減されました。
2. 読み間違い・書き間違いの完全撲滅
カメラによるスキャンに切り替えたことで、人間の感覚に頼る「聞き間違い」や「書き損じ」はゼロになりました。
3. 「その場でズレがわかる」安心感
スタッフから最も好評だったのは、「スキャンしたその場で、帳簿の数字と合っているかが画面に表示されること」でした。
もし数字がズレていれば、画面にアラートが表示されます。スタッフは「あれ?もう一回数えてみよう」「あ、奥のハンガーに1枚残っていた!」と、その場ですぐに原因を解決できるようになりました。すべてが終わったあとに後ろ髪を引かれるような再棚卸しの不安から、完全に解放されたのです。
さらに、集計されたデータは自動的にスプレッドシートにまとまっているため、店長やバックオフィスのスタッフが夜遅くまでExcelと格闘して集計する業務もなくなりました。
まとめ:身近なツールで、現場に寄り添う業務効率化を
今回の改善は、高額なパッケージシステムを導入したわけでも、複雑なシステム開発を行ったわけでもありません。
- 現場で余っている「スマートフォン」
- 無料で活用できるノーコードツール「AppSheet」
- 普段からお使いの「ネクストエンジン」と「Googleスプレッドシート」
これらをシンプルにつなぎ合わせただけで、現場のストレスを大きく減らし、時間と精度の両面で大きな成果を上げることができました。
業務のデジタル化やDX(デジタルトランスフォーメーション)と聞くと、どうしても巨額の投資が必要に思えてしまうかもしれません。しかし、本当に大切なのは「現場のスタッフが毎日ラクに、正確に作業できるようになること」です。身近なツールでも、組み合わせ方次第で会社を大きく変える仕組みを作ることができます。
無料ツールを使った業務効率化のご相談を承っています
当社では、今回ご紹介した「AppSheet」をはじめとする、無料・低コストのノーコードツールを活用した業務効率化のご提案・サポートを行っております。
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