「うちもAI活用してます」――そう答える企業は増えています。IPA「DX動向2026」によれば、全体の58.0%が生成AIを含むAIを導入・試験利用しており、生成AIの導入率も2024年度の22.6%から2025年度は44.0%へと急拡大しました。数字だけ見ると、日本企業のAI活用は着実に広がっているように見えます。
しかし、その中身を見ると印象が一変します。生成AIの組織での利用状況を見ると、「個人で業務利用している」が63.3%と圧倒的多数を占める一方、「部署の業務プロセスに組み込まれている」はわずか11.9%。つまり多くの企業の「AI活用」とは、社員が個々にChatGPTのようなツールを触っているだけの状態にとどまっており、組織的な仕組みとして根づいているケースはごく一部なのです。
数字で見る実態①:生成AIは「個人が触っているだけ」が過半数
DX動向2026が示す生成AIの組織での利用状況を整理すると、以下のようになります。
| 利用の形態 | 回答率 |
|---|---|
| 個人で業務利用している | 63.3% |
| 個人や部署で試験利用している | 44.8% |
| 部署の業務プロセスに組み込まれている | 11.9% |
| 全社的なサービスに組み込まれている | 18.6% |
「導入している」「試験利用している」という回答の大半は、実態としては個人の裁量に委ねられた利用にとどまっています。業務プロセスや全社サービスへの組み込みは合計しても3割に満たず、多くの企業にとって生成AIはまだ「便利な個人ツール」の域を出ていないというのが実情です。
数字で見る実態②:利用部署に大きな偏り ― バックオフィス先行、現場は置き去り
さらに見過ごせないのが、生成AIを利用している部署の偏りです。
| 部署 | 利用率 |
|---|---|
| ITシステム | 71.9% |
| 経営企画 | 69.0% |
| 総務・法務 | 68.4% |
| 製造(設計、生産管理を含む) | 35.7% |
| 調達 | 31.3% |
| 流通 | 23.9% |
IT・経営企画・総務法務といったバックオフィス系の部署では7割前後が生成AIを利用している一方、製造・調達・流通といった現場業務に近い部署では利用率が3割前後にとどまっています。「AI活用してます」という会社の看板の裏側では、実際に価値を生み出す現場作業のほとんどが、まだAIの恩恵を受けられていないのです。
なぜこの偏りが起きるのか
この偏りには、生成AIというツールの性質が大きく関係しています。生成AIの利用用途を見ると、「文書・音声の要約・翻訳・校正」82.5%、「文書・レポートの作成」80.5%、「情報検索・収集・分析・レポーティング」77.0%が上位を占めています。これらはいずれも、パソコンの前で文章や情報を扱う仕事――つまりオフィスワークと相性の良い用途です。IT・経営企画・総務法務の利用率が高いのは、業務そのものが生成AIの得意領域と重なっているからにほかなりません。
一方、製造・調達・流通の現場業務は、紙の書類、口頭でのやり取り、機械の操作、実物の確認など、テキストや画面上だけでは完結しない非定型な作業が中心です。加えて、こうした現場のノウハウや実績データは、そもそもデジタル化・言語化されていないことも多く、生成AIに「読み込ませる」土台自体が整っていないケースが少なくありません。DX動向2026でも、AI利活用に向けた学習データを「整備しており活用している」企業はわずか7.0%にとどまっており、現場のデータ未整備がAI活用の広がりを妨げている構図が浮かび上がります。
見落とされている機会:内向きの成果に留まる今こそ、現場に突破口がある
DX動向2026全体を見ても、AI導入による効果は「業務が効率化したり迅速化した」が91.6%と圧倒的多数を占める一方、「顧客満足度が向上した」は4.5%、「売上や利益が向上した」はわずか3.9%にとどまっています。AI活用の成果は依然として「内向き」の効率化が中心で、外向きの価値創出にはほとんど至っていません。
これは裏を返せば、バックオフィスの文書作業をいくら効率化しても、会社全体の競争力や収益に直結する変化は起きにくいということでもあります。製造・調達・流通といった現場は、コスト・品質・納期に直接影響する部門です。ここに生成AIやAI活用の光が当たっていないということは、多くの企業にとって「まだ手つかずの伸びしろ」が現場に眠っているとも言えます。バックオフィスのAI活用で満足してしまうのは、実はもったいない話なのです。
中小製造業が現場のAI活用を進めるための3つの一歩
とはいえ、いきなり現場全体をAIで武装しようとする必要はありません。DX動向2026のデータからも、大がかりな投資より先にやるべきことが見えてきます。
- 「文章化できる現場業務」から小さく始める――現場のすべてを一気にAI化する必要はありません。日報、作業手順書、検査記録の要約や整理など、まずは「言葉にできる」業務から着手するだけでも、生成AIが得意とする領域に現場業務を橋渡しできます。
- AI活用とデータ整備をセットで進める――学習データを整備している企業のほとんどが期待どおり以上のAI効果を得ている一方、整備企業はわずか7.0%です。現場の記録や実績データをデジタルで蓄積する仕組みを、AI導入と同時に作ることが遠回りに見えて最短ルートです。
- 現場の”勘どころ”を持つ人を巻き込む――生成AIの活用がバックオフイス主導で進むのは自然な流れですが、現場の非定型な業務をAI化するには、その現場を知る人の知見が欠かせません。IT担当だけで進めず、現場のベテランを企画段階から巻き込むことが、机上の空論で終わらせない鍵になります。
まとめ
IPA「DX動向2026」が示すのは、生成AIの導入率という表面的な数字の裏で、活用の実態が「個人利用」と「バックオフィス」に大きく偏っているという現実です。特に岐阜・愛知エリアに多い製造業にとって、調達・製造・流通といった現場こそが収益とコストを左右する本丸であるにもかかわらず、そこにAIの光がまだ十分に届いていません。
「AI活用してます」という言葉で満足するのではなく、その活用が本当に現場まで届いているかを一度点検してみること。それが、他社に先んじて現場の伸びしろを掘り起こす第一歩になるはずです。
私たちCELLECは、岐阜・愛知エリアの中小製造業・卸小売業のお客様と一緒に、バックオフィスだけでなく現場業務のデジタル化・AI活用にも取組んできました。「どこから手をつければいいかわからない」という段階でも、まずはお気軽にご相談ください。
出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「DX動向2026 ~広がるAI導入、DXは変われるか~」(2026年7月30日発行)