「Amazonへの商品登録に、1商品あたりどれだけ時間がかかっているか数えたくない」——EC事業者の方から、こうしたお話をいただくことは少なくありません。今回ご紹介するのは、岐阜県関市で刃物の小売ECを営むお客様からのご相談をもとに、Amazonの出品作業そのものを自動化するシステムを開発した事例です。
結論から書くと、従来の作業負担を体感で3割程度まで圧縮することができました。何をどう変えたのか、順を追ってご説明します。
ご相談の背景:Amazon出品が「一番きらいな仕事」になっていた
お客様は、関市の地場産業である刃物を取り扱う小売EC企業様です。自社の本店ECサイトを軸に、Amazonをはじめとするモールへの多店舗展開を進めておられました。
商品自体は本店サイトに情報が揃っている。写真も撮ってある。にもかかわらず、Amazonへの出品作業だけが極端に重い。「新商品が出ても、Amazonへの登録が追いつかない」という状態が慢性化していました。
エクセル出品ファイルとの終わりなき戦い
従来のフローはこうです。Amazonセラーセントラルからカテゴリーごとのエクセル出品ファイル(テンプレート)をダウンロードし、そこへ商品情報を打ち込み、アップロードする。エラーが返ってくれば修正して再アップロード。これを通るまで繰り返す、というものでした。
この作業には、経験された方なら思い当たる固有のつらさがあります。
- 項目数が膨大:カテゴリーによっては百を超える列が並び、そのうち自社に関係のある項目は一部だけ。どれが必須でどれが任意かを毎回探すところから始まる
- 入力規則が厳密:単位、桁数、選択肢の表記ゆれ。半角全角ひとつでエラーになる
- 「これは何の項目?」が多い:定義がつかめない項目に、とりあえず値を入れて様子を見る、という進め方になりがち
- 原因不明のエラー:エラーメッセージを読んでも該当箇所が特定できず、当たりをつけて試行錯誤するしかない場面がある
さらにAmazonには、メイン画像は背景を白抜きにするという画像規定があります。物撮り画像の背景やテキストを1枚ずつ切り抜き、規定の解像度に合わせ、商品が中央に来るよう配置し直す。この画像加工も、出品1件ごとに発生する手作業でした。
つまり「情報を入れる作業」と「画像を整える作業」の二重の負担が、出品のたびにのしかかっていたわけです。
開発したシステムの全体像
今回構築したのは、Amazon出品用のデータと画像を、自社サイトのURLを起点に一気通貫で生成するシステムです。大きく4つの機能で構成されています。
| 工程 | 従来 | 本システム導入後 |
|---|---|---|
| テンプレート準備 | 出品のたびにDLし、項目を確認 | 初回に一度読み込み・設定するだけ |
| 商品情報の入力 | 膨大な列に手入力、エラーと再修正 | 本店サイトURLを入れると自動展開 |
| 商品説明・キーワード | 手書き、または本店からコピペ | AIが検索対策を意識した文章を生成 |
| メイン画像の白抜き | 1枚ずつ手作業で加工 | ワンクリックで背景除去・中央整列 |
| サブ画像 | 物撮り画像のみ | 使用シーン画像をその場で生成 |
| 内容の確認 | アップロード後に実物で確認 | 入力しながらプレビューで確認 |
| 在庫連携 | Amazon作業とは別に実施 | 出品ファイルと同時に自動出力 |
1. テンプレートは「最初に一度だけ」設定する
まず、Amazonのエクセルテンプレートをシステムに一度読み込ませ、そのカテゴリーで実際に必要な項目だけを選び出して設定します。これにより、以降の作業画面はそのお客様専用の登録フォームになります。
ここが地味ながら効果の大きいポイントです。使わない項目は画面に出てこないので迷わない。必須項目は空欄のまま進めないようになっているので、アップロード後にエラーで弾かれる回数が構造的に減ります。「エラーを直す」のではなく「エラーが起きない状態で書き出す」という考え方に切り替えたわけです。
2. 自社サイトのURLを入れるだけで、フォームが埋まる
入力の起点は、本店ECサイトの商品ページURLです。URLを貼り付けると、システムが自社サイトから商品情報を取得し、フォームに自動展開します。
ただし、単純な転記ではありません。ここでAIを組み込み、Amazon内の検索を意識したキーワード設計と、閲覧者の購買意欲に働きかける言い回しで、商品説明・仕様・検索キーワードを生成しています。
本店サイトの文章をそのままAmazonに持ち込んでも、モールでは戦い方が違うため十分に機能しないことがあります。かといって全商品分を書き直す時間はない。この「書き直しの初稿をAIに任せ、人は確認と調整に集中する」という分担が、実務上いちばん効いた部分でした。
3. 画像は「候補を全部集めてから、選ぶ」
画像についても、自社サイト上の画像URLをいったんすべて候補としてフォームに取り込みます。その中から、Amazonの作法に沿ってメイン画像1枚+サブ画像8枚を選び取る形にしました。
探す作業と選ぶ作業を分けたことで、画像フォルダを開いてファイル名を頼りに探し回る手間がなくなりました。
4. メイン画像の白抜きをワンクリックで
Amazon出品で特に負担の大きかったメイン画像の加工は、AIとの連携で自動化しました。ボタンひとつで以下の処理が走ります。
- 背景と焼き込まれたテキストを切り抜き、商品本体のみを抽出
- 規定の解像度に固定してスケール調整
- 商品が画像の中央に来るよう自動で整列
画像編集ソフトを立ち上げてパスを切っていた工程が、実質的に消えました。
5. サブ画像は「使用シーン」をその場で生成
刃物という商材の性質上、手元にある写真は物撮り中心になりがちです。しかしAmazonのサブ画像枠では、実際に使っている場面が伝わる画像があるかどうかで、閲覧者の理解度が変わります。
そこで、1行のプロンプトを書くだけで使用シーン画像を生成できる機能を組み込みました。撮影の手配をしなくても、足りない訴求を画像で補える状態です。
画像生成モデルは、GPT-5.4-image2やNanoBanana2といった比較的低コストなモデルを、生成のたびに選択できるようにしています。「ここは商品の顔になるから品質重視」「ここは補足だからコスト重視」といったクオリティのコントロールを、担当者の判断でその場で行えます。
OpenRouterで、APIキー1つで複数モデルを横断する
この「モデルを選べる」構成を支えているのが、OpenRouterのAPIです。各社のAIサービスと個別に契約してAPIキーを管理するのではなく、1つのAPIキーで複数モデルを横断的に扱える形にしています。
AIモデルは新しいものが次々に出てきます。特定の1社に作り込んでしまうと、より安く高品質なモデルが登場したときに改修が必要になる。最初から乗り換えを前提にした構造にしておくのが、今の時代の設計だと考えています。
気になるAIの利用コスト
AI活用のご相談でほぼ必ず聞かれるのがランニングコストです。本システムの場合、AIによる商品説明生成+画像の白抜き・生成1枚で、合計10円台に収まっています(利用モデルや為替により変動します)。
1商品あたり十数円で、それまで人が数十分かけていた工程が置き換わる。費用対効果としては、説明の必要がないレベルかと思います。
6. 「出品後にどう見えるか」を見ながら入力できる
エクセルでの作業には、もう一つ見落とされがちなリスクがあります。行のズレです。
複数商品をまとめて扱っていると、コピー&ペーストの操作ひとつで1行分ずれ、A商品の欄にB商品の情報が入ってしまう。しかも表計算ソフトの画面上では、それが間違っているとは見た目で分かりません。気づくのはアップロードして実際の商品ページを開いたとき、あるいはお客様からのご指摘で、というケースすらあります。そこから修正して再登録、という手戻りが発生していました。
本システムでは、専用フォームに入力するとその場でプレビューが即座に更新されます。
- 商品説明や仕様が、出品後にどう表示されるか
- メイン画像・サブ画像が、どの順番でどう並ぶか
- 改行や記号が意図どおりに反映されているか
これらを確認しながら入力を進められるため、そもそも別商品の情報が混ざるという事故が起きにくくなります。「間違いを後から見つけて直す」のではなく、「間違ったまま先に進めない」構造にしたわけです。
登録作業そのものの時間短縮以上に、この手戻りがなくなった効果は大きいというお声をいただいています。やり直し作業は、時間を奪うだけでなく気力も削るものです。
ネクストエンジンの在庫連携も、同じ1回の作業で
もう一つ、実務上大きかったのがこの機能です。
お客様は在庫管理にネクストエンジンをお使いでした。Amazonに商品を登録したら、当然そちらにも在庫連携の設定が必要になります。従来はこれが完全に別作業として発生していました。
本システムでは、Amazon用のエクセル出品ファイルを出力するのと同時に、ネクストエンジンの在庫連携用ファイルも生成するようにしました。一度の入力で、二つの出口に必要なデータが揃う形です。
業務システムをつくるとき、私たちは「その作業の前後で、他に何が発生していますか」を必ずお聞きします。目の前の作業だけを自動化しても、その隣に残った手作業がボトルネックになるからです。今回はまさにその典型でした。
導入の効果
Amazon特有の商品登録の面倒さ・手間を、お客様の体感で3割程度まで下げることができました。厳密な工数計測ではなく、実際に作業されている方の感覚値です。
数字以上に意味があるのは、次の変化だと考えています。
- エラーとの試行錯誤という、成果に直結しない時間が減った
- 誤った情報のまま出品し、後から直すという手戻りがなくなった
- 「新商品をAmazonに出す」という判断のハードルが下がった
- 商品説明や使用シーン画像といった、売上に効く部分に手が回るようになった
作業が速くなること自体より、それまで諦めていたことができるようになるほうが、事業へのインパクトは大きいものです。
システム構成
技術的な構成もご紹介しておきます。同様のシステムをご検討中の方の参考になれば幸いです。
| 領域 | 採用技術 | 選定理由 |
|---|---|---|
| 実行環境 | Docker | 環境差異をなくし、ローカルからクラウドへそのまま移行できる |
| アプリケーション | Python / Flask | 軽量で、スクレイピングやAI連携との相性が良い |
| データベース | Cloud Firestore | カテゴリーごとに項目が異なるAmazonのテンプレートを柔軟に扱える |
| AI連携 | OpenRouter API | APIキー1つで複数モデルを横断的に利用できる |
| 稼働場所 | 現在:ローカル環境 今後:Cloud Run | まず手元で使い込み、固まった段階でクラウドへ |
まずローカルで動かす、という選択
現時点では、このシステムはお客様の手元のパソコン上(ローカル環境)で稼働しています。Dockerでコンテナ化してあるため、環境構築でつまずくことなく起動できる状態です。
いきなりクラウドに載せなかったのは、初期段階では実際に使ってみて分かる改善点が必ず出てくるからです。手元で動いていれば、修正して即座に試せます。サーバー費用も発生しません。
そして運用が固まってブラッシュアップが一段落した段階で、Google Cloud のCloud Runへデプロイする予定です。Dockerで作ってあるので、この移行は構成をほぼそのまま持ち上げる形で実現できます。「あとでクラウドに移すなら作り直し」という事態を避けるために、最初からコンテナ前提で設計しておく——ここは地味ですが重要な判断でした。
Cloud Runはリクエストがあったときだけ課金される従量制のため、1日に数回使う程度の社内システムであれば、月額のランニングコストはごくわずかに抑えられます。中小企業の業務システムとは相性の良い選択肢です。
なぜこの構成にしたのか|段階的に進めるという判断
今回、第一段階ではシステムからエクセルファイルを書き出し、それを手動でAmazonにアップロードするという流れにしました。技術的には、AmazonのAPIを使ってシステムから直接登録することも可能です。
それでもあえて手動アップロードから始めたのには理由があります。
- 効果が出るまでが早い:API連携の実装と検証を待たずに、負担の大きい部分から先に楽になる
- 出力内容を人の目で確認できる:導入初期は、生成されたデータが意図どおりかを確かめながら進めたほうが安全
- 投資を分割できる:まず使ってみて、本当に必要だと分かった段階で次に進める
今後のロードマップは次のとおりです。
| 段階 | 内容 | 状況 |
|---|---|---|
| 第1段階 | ローカル環境で稼働、エクセル出力+手動アップロード | 稼働中 |
| 第2段階 | 運用を踏まえたブラッシュアップ、Cloud Runへデプロイ | 予定 |
| 第3段階 | Amazon APIによるシステムからの直接登録 | 予定 |
最初から完璧な全自動を目指して大きな予算と長い開発期間をかけ、動き出す前に息切れしてしまう——中小企業のシステム開発では、これが最もよくある失敗パターンです。小さく、正しくつくって、効果を確かめながら育てる。私たちが一貫して取っている進め方です。
よくあるご質問
Q. 自社のECサイトがAmazon以外のモールでも、同じ仕組みは作れますか?
A. 可能です。今回はAmazonのエクセルテンプレートに合わせて出力していますが、出力先のフォーマットを差し替える設計にしてあります。楽天市場やYahoo!ショッピングなど、他モールへの展開も同じ考え方で対応できます。
Q. AIが作った商品説明は、そのまま使えるものですか?
A. 最終確認は人が行う前提でお使いいただいています。AIの役割は「ゼロから書く」を「確認して直す」に変えることです。特に刃物のように、素材・製法・法規に関わる記述が重要な商材では、担当者の目を通す工程は残すべきだと考えています。
Q. 開発期間と費用はどのくらいかかりますか?
A. 取り扱いカテゴリー数、連携先システムの有無、AI機能をどこまで含めるかによって変わります。今回のように段階を分けることで、初期費用を抑えたスタートも可能です。おおよその規模感は、現在の作業内容をお聞かせいただければ初回のご相談時にお伝えできます。
Q. 岐阜県・愛知県以外でも対応してもらえますか?
A. オンラインでの対応も承っておりますが、岐阜県・愛知県のお客様には直接お伺いして、実際の作業画面を拝見しながら要件を詰めることを基本としています。「今どうやっているか」を見せていただくのが、業務システム開発では最短の近道です。
同じような作業に時間を取られていませんか
「毎回エクセルと格闘している」「同じ情報を複数のシステムに入力している」「面倒すぎて後回しになっている作業がある」。こうした業務は、外から見ると自動化の余地がはっきり見えることが少なくありません。
CELLECは岐阜県関市を拠点に、岐阜・愛知の中小企業様のシステム開発とDX支援を行っています。代表がエンジニアとして直接お話を伺い、そのまま設計・開発まで担当します。営業担当を経由しないぶん、「それはシステムにしなくても解決できます」といった話も含めて、率直にお伝えできます。
現在の作業を見せていただくところからで構いません。まずはお気軽にご相談ください。